可愛い女性の作られ方
四.担当変更――自覚したくないのに自覚した
そろそろコートが手放せなくなってきた頃。
私は大抜擢されて、大きな仕事を任された。
大口取引先に提出したいくつかの班の案の中で、私の案が採用されたのだ。
初めて、複数班での合同チームの中、チーフに選ばれた。
いままで以上に必死で頑張った。

……でも。

「その、まあ、こっちとしては不服だが、仕方ないのわかるよな。
担当は篠崎君から高城君へ変更になる。
まあ、仕事の内容自体には変更はないし、君にはサブという形にはなるがこれからもこの件に関しては引き続き関わってもらう。
不満はあると思うが、相手は大事な取引先だ。
納得してくれ」

「……はい。
わかりました」
 
入社時代にやったミスを、揚げ足を取るように先方から指摘された。
そういうミスをするような人間には任せられない、と。
詭弁だってわかっている。
相手は私が女だから、気に入らないのだ。

いまどき、とは思う。
でもいまでそういうことはちょくちょくある。
現に会社でも私は、半分の班しか受け持たせてもらえていない。

わかっているから、笑って飲み込んできた。
そうするしかなかった。

でも今回は。

先方も私の案で乗り気だった。
初めてといっていいほど、任された大きな仕事。
女だからって、舐められないように頑張った。

……けど。

結局、女ってことだけで外された。

「まあ、その、残念、だったな。
先方がおまえのどこに、女を見たのか知らんが」

躊躇いがちに裕紀が声を掛けてくる。

「そーだよなー。
中身おっさんなのに、そんなこといわれると困るよなー。
まあ、私はサブにまわらせてもらって、
楽させてもらうから!」
 
わざとふざけて豪快に笑い飛ばし、裕紀の背中を力任せにばんばん叩いてやる。

「やっぱりおまえは、女の皮を被ったおっさんだな!」
 
裕紀は咳き込みながら笑っている。
まわりもつられて、笑っていた。

……うん。
これでいい。
私に落ち込むなんて似合わない。


意外と引き継ぎに手間取って。
退社時間になっても、まだわたわたしていた。
加久田たちにはもう用がなかったら、先に帰らせる。
気が付いたら、課内には裕紀と私のふたりになっていた。
ふたりとも、なんとなく気まずくて、妙に口数が増えていく。

「その、落ち込むなよ」

「落ち込む訳ないだろ」

「俺はおまえのこと、高く買ってるから」

「ありがとな」

気まずそうに裕紀が慰めてくる。
それを、ただただ流した。

「その、このあと、ふたりで飲みに行かないか?」

「なんで?」

「残念会、的な」
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