可愛い女性の作られ方
「いいから。
そのあいだ、キッチン借りますね。
……あ、もうパジャマでいいですからね!」

「……わかった」
 
加久田の言動は訳がわからなかったが、疲れていたから素直に指示に従うことにする。
風呂へ湯を入れ始めてから、寝室にいってパジャマセットを持って浴室へ戻る。
戻る途中でキッチンの加久田を見ると、なにやらごそごそやっていた。

「……はぁーっ」 
 
お湯に浸かると、ため息が漏れた。

きっと今日は帰ってひとりだったら、風呂にも入らず、ごはんも食べず、ただベッドの中で丸くなってた気がする。
だから、帰って加久田がいてくれて……嬉しかった。

あまり長くはいって待たせるのも悪い気がして、早々に切り上げる。
上がるとテーブルの上にはなにやらいろいろのっていた。

「もう上がったんですか?
もっとゆっくりしててよかったのに」

「待たせるの、悪いだろ」

「まあいいや。
とりあえず、ごはん、食べましょう?」

「って、これ、おまえが作ったのか?」
 
テーブルの上に並んでいたのは。

サーモンのカルパッチョみたいなのに、コロッケにはマヨネーズを塗って焼いてあって。
豆腐の上にはオクラの刻んだのになめたけ。
からあげにはなにやらタレが絡まってスライスたまねぎを和えてある。
ご飯には梅干しとじゃこ、大葉にごまを混ぜ込んであった。

「まあ、できあいの奴にアレンジ加えるくらいしかできないですけど」

「……いや。
これだけできれば凄いと思うぞ」

「わーい。
先輩に褒められた。
じゃあ、いただきます」

無邪気に喜んでいる加久田が可愛くて、ささくれだった心が少し温かくなった。

「……いただきます」

「あ、先輩」

「……なんだ」

料理に箸をのばそうとしていたとこだったので、ちょっと不機嫌になる。

「今日は先に飲みますか?
あとですか?」

「もう風呂入ったし、このメニューだったら先」

「了解です!」
 
勝手知ったる何とやらで、冷蔵庫から日本酒と、食器棚からグラスを持って加久田が戻ってくる。
テーブルの上に置かれたのは……特別なときにしか買わない、お気に入りの日本酒。

「……今日は特別な日じゃない」

「……いいんです。
今日は特別で。
だからこれ、買ってきたんですから。
ほら、飲みましょう」

「……」

無言で、グラスに注がれた酒を飲み干す。
空きっ腹にこんなふうに酒を入れると、すぐにまわってくることはわかっていたけど、そうすることしかできなかった。
無言で注がれた二杯目を、また無言で飲み干す。

「加久田?」
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