可愛い女性の作られ方
ふっと加久田が愛しむように笑った気がした。
ベッドに座って、ゆっくりと髪を撫でてくれる。
なぜか安心できて、そのままゆっくりと眠りに落ちていった。


朝起きたら、加久田はいなかった。
うちに泊まりに来るようになって。
泊まらないで、しかも手を出さないで帰ったのは初めてだ。

……今日はごはん炊いていないから、弁当はなしだな。

そう思っていたら、不意に炊飯器ができあがりを知らせるメロディーを奏でだして驚いた。

加久田の奴、こんなことまで。
完全に気、使わせたな。
いつか埋め合わせしないと。

ごはんを混ぜて、弁当箱を出す。
昨日そのままだった弁当箱も、しっかり洗ってくれていた。

ごはんを詰めて、ちょっと考えた。
流しの上の棚を漁って、適当な大きさのタッパを出して、残りのごはんも詰める。
ちょっと足りない気もしたけど仕方ない。
私は夜も小食だ。

いつもは一つで作る卵焼きを、今日は三つで作る。
昨日の残りなのか、オクラも冷蔵庫に入っていたので、明太子と一緒に和えて巻き込む。

ピーマンと人参を千切りにして、豚こまと一緒に甘辛く炒めて、これでかさ増し。

南瓜が残っていたから、レンジでチンして、荒く潰してマヨネーズで和えて簡単サラダ。

三品だけのおかずは淋しい気もしたけど、いつも私のお弁当はこんなものなので、これで我慢してもらうことにする。


いつも通り朝食食べて、着替えて化粧して。
冷めたおかずを弁当箱に詰めて、タッパの方は適当な大判ハンカチで包む。
今日はいつものバックに弁当が入らないから、手頃な大きさの紙袋に放り込んで家を出る。


会社に着くと、意外なほど気持ちはスッキリしていた。
まだ腫れ物に触るような周囲とは裏腹に、普通に仕事をこなしていく。
途中、お手洗いに立った隙に、加久田にメッセージを入れておいた。

【昼休み、屋上】

ただ、それだけ。

昼休み。
屋上でちょっとそわそわしていた。
返信はなかったけど、既読になっていたから、ちゃんと加久田は見ているはず。
仕事中のメッセージは、忙しいことも多いから、返信がないことも間々ある。
だから、その辺りは気にしていない。

「すません、遅くなりました……」

「これ」
 
言葉短く、自分の分を抜いた紙袋を、加久田に突き出す。

「……?」
 
怪訝そうに、加久田は紙袋の中を見ている。

……もし、いらないとかいわれたらどうしよう?

「……!
いいんですか?」

「昨日の礼、には足りないけど。
でも、よかったら」

「ありがとうございます!
十分です!」
 
嬉しそうに笑っている加久田を見て、……ああ、私は奴のことが好きなんだ、って自覚したくないのに自覚した。
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