可愛い女性の作られ方
五.嫉妬――死んだら困る
――加久田のことが好き。

そう自覚してから、気持ちの上で距離をとるようになった。
相変わらず加久田を家には上げていたし、体も重ねていた。

……けど。

加久田に、自分の気持ちを知られてしまうことが怖かった。
知ったらきっと、加久田は喜んでくれると思う。
わかっている。

でも……怖い。

私よりも七つ年下の加久田。
いつ、こんなおばさんなんか、飽きられるかわからない。
それでなくても、私は中身もおっさんだ。
加久田に捨てられることを思うと、気持ちを封じ込んで体だけの関係だけでいた方が終わってしまったときに傷が浅そうな気がして、それでいいんだと自分に言い聞かせていた。


「先輩。
最近、ちょっとおかしくないですか?」

「なにが?」

金曜日、いつも通りうちに来ていた加久田が、不安そうに私を見つめた。

「俺、なにかしましたか?
それとも、俺のこと、嫌いになりましたか?」

「……違う」

……おまえのこと、好きになっただけ。

「でも最近、なんか俺のこと、遠ざけてませんか?」

「気のせい、だろ」

……そう。
近付きすぎてしまうのが、怖いから。

「……なら、いいんですけど。
もし、嫌いになったときはいってください。
嫌われてるのにつきまとうほど、痛いことしたくないですから」

「……嫌うわけ、ないだろ」

……寧ろ。
おまえの方こそ、早くいってくれ。
私の傷が浅くてすむうちに。

いつものようにキスされて、気持ちよさに溺れながら、……気持ちは固く閉ざしておいた。 


最近加久田と美咲ちゃんが話していると……妙に苛々した。

身体だけの関係だけでいい、そう思っておきながら、私は愚かなことに……嫉妬していたのだ。
だって、美咲ちゃんはきっと、加久田のことが好きだから。

もし私が。
せめてまだ、二十代だったら。

つい莫迦なことを考えてしまう。

どんどん真っ黒になっていく、私の心。

私の中に、こんな女みたいな、醜い部分があったなんて初めて知った。
苦しくて苦しくて、次第に身体を重ねることすら、苦痛になっていった。
そしてとうとう……とうとう私は。
やってしまった。


その日も加久田は、美咲ちゃんと楽しそうに話していた。
私と目が合うと、にっこり笑う。
ぎこちなく笑い返しながら……心の中は、嫉妬の嵐だった。

やっぱり。
こんなおばさんより、若い美咲ちゃんの方がいいんじゃないか。

やっぱり、背も高くて女らしくない私より、小さくて可愛い美咲ちゃんの方がいいんじゃないのか。
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