可愛い女性の作られ方
やっぱり、化粧っ気もない私より、可愛くメイクしている美咲ちゃんの方がいいんじゃないのか。

やっぱり、やっぱり、やっぱり……。

「美咲ちゃん。
これ、今日中に整理お願い」

「今日中、ですか……?」
 
私が置いたのは、到底今日中には終わらない、大量の書類。

「そう。
今日中」

「先輩。
これ、別に今日中じゃなくてもいいんじゃ……」

……なんで加久田、庇うの?
やめて、やめてよ。

「加久田は黙ってろ。
できるよな?
これくらい」

「……はい」
 
美咲ちゃんは涙目になって俯いている。
加久田は私を呆気にとられてみている。

わかっている。
こんなこと、ただの嫌がらせだって。
わかっているけど、醜い私はそうしないと気が済まない。

……ううん。
わかっていた。

こんなことしたって、自分がもっと苦しい思いをするだけだって。


終業時間になっても、美咲ちゃんはまだ仕事していた。
当たり前だ。
夜中までかかるくらいの量、置いてきたんだから。

美咲ちゃんを無視して、さっさと会社を出る。
私が会社を出るとき、加久田が美咲ちゃんに話し掛けているのが見えた。
きっと、手伝うとかいっていたんだと思う。

……莫迦。
加久田の莫迦。

今日は金曜日だったけど、晩ごはんは作らなかった。
なんとなく、加久田は来ないことがわかっていたから。
真っ暗な部屋の中、クッション抱えてベッドに座る。

きっと加久田は私のこと、呆れている。
嫌いになったかもしれない。

……でも。

それでいいのかもしれない。
そうすれば私は、またひとりになる。
ひとりになれば、こんな思い、しなくていい。
毎日毎日襲ってくる、不安や恐怖に怯えなくていい。
もうこんな思い、したくない――。


――ピンポーン

ずっと、クッション抱えて蹲っていたら、不意にチャイムが鳴った。
時計を見ると、もう十時をまわっていた。

「……先輩。
加久田です」
 
いつもと違うトーンの、声。
私は固まってしまって、指先すら動かせない。

――ピンポーン

「……先輩、いますよね?
入りますよ」

――ガチャ

合い鍵使って、加久田が入ってきた。
でも、私はやっぱり、クッションに顔をうずめて固まっていた。
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