可愛い女性の作られ方
「先輩。
電気つけますよ」

部屋の中が明るくなって、加久田が私の隣に立っているのがわかった。

「……今日はどうしたんですか?」

「…………」

「先輩、らしくない」

「…………おまえが」
 
加久田の一言に。
……私の中で、なにかが吹っ飛んだ。

「え?」

「おまえが、らしくないとかいうなっ!
あれが、あれがほんとの私なんだよっ!
気付きたくないのに、おまえが気付かせたんだろっ!」

「先輩……?」

「私だって知りたくなかった!
あんな、あんな女みたいな、醜いとこが自分にあるなんて!
でも、でも、おまえを好きになって、でも捨てられるのが怖くて、自分で距離をとろうとしてるのにおまえが美咲ちゃんと話してると嫉妬して!
こんな自分が嫌なのに、美咲ちゃんに当たるしかできなくて!
嫌だ、嫌だ、もう、嫌だ……」
 
我ながら、いっていることが滅茶苦茶だと思う。
ただの八つ当たりでしかないこともわかっている。
加久田だって呆れている。

「……優里は。
俺のことが好きですか?」
 
顔も上げないでぼろぼろ泣いていたら、……そっと抱きしめられた。

「どうなんですか?」

「……好き。
加久田が、好き」
 
ゆっくりと、加久田の右手があやすように私の髪を撫でる。

「俺が優里のこと、捨てるとでも思ってるんですか?」

「……だって、私は七つも年上のおばさんだし。
中身はおっさんだし」

「何度もいってるでしょう?
優里は中身も女だって。
女だから、嫉妬したんでしょう?」

諭すような加久田の声は、優しい。

「……そう」

「それに俺は、絶対に優里のこと、捨てたりしませんよ。
こんな可愛い女(ひと)、手放す訳ないでしょう?」

「……ほんとに?」

「ほんとに。
ずっと一緒になんて夢みたいなこと、って笑う奴がいますけど。
そんな奴、笑わせとけばいいんです。
俺はずっと優里と一緒にいます。
約束、しますから」

「約束?」

恐る恐る顔を上げると、加久田は優しく微笑んでいた。

「はい。
指切り、しましょうか」
 
差し出された小指に、躊躇いつつ自分の小指を絡める。

「指切りげんまん、嘘ついたら……そうですね、俺が死にます。
ゆびきったー、と」

「……加久田が死んだら困る」

「大丈夫ですよ。
絶対に嘘、つきませんから」
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