可愛い女性の作られ方
「……はぁーっ。
わかりました。
週末、うちに取りに来てください」

仕方ないな、ってふうにちょっと笑い、加久田は了承してくれた。
持つべきは理解の早い部下だとつくづく思う。

「恩に着る。
今日のランチ代は持つから」

「いいですよ!」

「スーツのレンタル賃とでも思ってくれ」

「……わかりました。
ごちそうになります」
 
加久田と並んで店を出る。
戻って午後からの仕事に打ち込んだ。



週末。

私は加久田に指定された、駅前に立っていた。

ちなみに今日の服装は仕事用のシャツにジーンズ、靴はスニーカー。

……仕事用のシャツなのは理由がある。

髪も化粧もいつも通りだけど、眼鏡はプライベート用の黒セル眼鏡。

「お待たせしました」

「いや、用があるのはこっちだし。
休みの日に悪かったな」

「いえ、いきましょうか」
 
促されて並んで歩き出す。
今日の加久田はTシャツにジーンズ、上から半袖シャツを羽織って、靴はスニーカー。
いつものスーツよりも少し、幼く見える。

「ここです」
 
五分ほど歩いて、こぢんまりとした三階建てのアパートを示された。
階段を上がり二階へ。
招かれた部屋の中へ入る。

「どうぞ」

「おじゃまします」

1DKのその部屋の中は、うちなんかと違ってきれいに片付けてあった。

たぶんきっと、私みたいに「人が来るっ」って慌てて片付けたんじゃなくて。
普段からそうなんだろうと思わせる感じ。

「適当に座っててください。
いま、コーヒー淹れますから」

「気、遣わなくていいぞ。
あ、これ、おまえが好きだっていってた、
アルファリアのワッフル。
よかったら」

「先輩こそ、気、遣わなくてよかったのに。
じゃあ、あとで一緒に食べましょう」

「ああ」
 
なにげに本棚を見ると、男性がよく読む雑誌に混じって業界誌が数冊。

……ちゃんと勉強しているんだな。

そう思うと上司としては嬉しくなる。

淹れてくれたアイスコーヒーを飲んで、加久田が出してくれたスーツを洗面所で試着した。

……仕事用のシャツを着てきたのはこのため。
ワイシャツまで借りる訳にはいかない。

「どーですかー?」
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