ハートの国の王女様は、三人の王子に求婚される
頬杖をつき、キャットもチョコレートをつまむ。

杏は、「……うん。そっか、まだ半年しか経ってなかったんだ」と呟いた。もう何年も前からいるような不思議な感覚があるからだ。

杏のお婿探しはどこの国でも有名で、杏が街を歩けば三人のことを訊かれることも多い。しかし、杏は三人の誰かに恋心など抱いていない。杏は今はこうして遊んでいたいのだ。

暗くなりかけたお茶会を、ハンスが「ねえ知ってる?」と空気を変えようとする。

「最近、ワンダーランドのあちこちを荒らしている盗賊団がいるんだって。まだ捕まってないらしいし、気をつけないとね」

盗賊団、という物騒な言葉に杏は顔を上げる。

「えっ?そんなこと初めて聞いた」

「杏は忙しいからね〜。それに新聞はあまり大きく取り上げてないし……」

フィンが言った。杏は、「すぐに捕まえてもらわないとね」と城に戻ったらお母さんに話すことを決めた。

「噂では、盗賊団の次の狙いは女王陛下の冠らしいよ」

ハンスが緊張したように言う。たしかにお母さんは、ワンダーランドにいる時は美しいルビーがついた金の冠をつけている。
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