空に向かって


本を棚に戻すと、入ってきた来客を本と本の隙間から覗き込む。

「…っ」

入ってきた来客は、静かに椅子に腰を下ろし持っていたカバンから本を取り出す。

愛読書を持参しているあたりかなり真面目な様子が伺えるが、なんでよりによってこんな時にこの空間に2人で居なくちゃならないんだ。


青木は本を読んでいても何をしていても綺麗だった。女の私でさえもそう思うほどに。

痛みを知らない黒髪を耳にかけ、本をただひたすらに読む。

そんな仕草さえも絵になる。

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