空に向かって
落ちた本はそのままにして図書室から出ようと扉を開けた時だった。
「…り、と…」
小さな声で、本当に小さな声で青木が何かを話した。
「え?なんて?」
扉の音が大きかったせいか、上手く聞き取れなかった私はもう一度聞き返す。
「………この前は、」
扉を開ける事によって生ぬるい空気が図書室へと入ってきた。
8月の中旬、残暑もそろそろ終わりかとみせかけまだ蝉は鳴くし夜中は鈴虫はうるさい。
そんなか細い声で青木は先ほどとは違いハッキリと言葉を発した。
「あの時は…ありがとう」
凛とした顔、声の青木は私から視線を外さずにそう言った。