【完】Mrionation
縮まる距離
「志野ー、なんか飴持ってる?」
とある日。
珍しく、朝からのど飴をくれと要求して来た彼。
見れば顔色は真っ青で、一目で具合悪いことが伺える。
見兼ねて「大丈夫ですか?」と顔を合わせる度に、何度も聞くけれど、返ってくる返事は何時も「うん」とだけ。
私は気が気じゃないから、仕事も上の空。
案の定、女の先輩にチクリと嫌味を言われるくらい。
そして…現在に至る。
「小窪さん…医務室行きます?」
「いんや…それよか…志野の膝貸して」
「っ!小窪さんてば…」
「志野の愛に飢えてんの」
「うう……」
ちょっと遅めのランチタイムに合わせて、休憩室で寛いていた私の目の前に現れると、彼はそう言って、少し強引に私の膝に頭を乗せた。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
そう思うのに、私は思わず魅惑的な香りのする彼の柔らかそうな髪に、ふわり、と触れてしまっていた。
ハッとして手を引っ込めようとすると、彼が瞳を閉じたまま、うっとりした声で囁く。
「あー…志野は本当に癒やし系女神だな」
「は…?」
少しだけ弱々しくくぐもった声。
だから、少ししか聞き取れないけれど、彼流の褒め言葉を言ってくれているのだけは、伝わってきた。
そして、すぐにすぅっと小さな寝息が聞こえてくる。
「……。ご飯食べられないじゃん、これじゃ…」
私は溜息を吐くとお茶のペットボトルの蓋を、ぱきん、と開けてその液体だけを胃に流し込んだ。