【完】Mrionation
「あのさー、志野ー?最近、ちゃんと泣いてる?」
「…へ…?」
「あー…いんや…こっちの話。泣いてないならいいんだよ」
「あ!ちょっと!分かるように話して下さいよ!しかも、勝手に人のパソコン落としてタイムカード切るの止めて下さいってば!」
「先輩として、これ以上のサービス残業はさせられませーん」
「もー!」
意味の分からないことばかりを投げ付けられて、こっちが困っている間に、テキパキと私の帰り支度を終えて、手を差し伸べてくる。
「なんですか?」
「手」
「はい?」
「手、ちょーだい」
「はぁ…って!ちょっとちょっとー!」
不意討ちでぎゅうっと大きな手に包まれる。
私の顔はそれと同時にりんごよりも赤くなった。
「…茹でダコみたいだな」
「せ、せめてりんごとか言ってくださいよ!もう!」
プリプリ怒ると、まぁまぁと宥められ、あれよあれよという間に、エントランスホールまで連れてこられてしまった。
「っていうか!小窪さん!具合悪いのに!私となんかご飯食べてる場合じゃないでしょ!?」
「んー?いいのいいの。志野が俺の栄養成分だから」
「はぁ?」
「さ。ほら車乗るぞ」
「ちょ、私だって車通勤…」
「でーも、今日は乗ってきてない…だろ?」
「むぅー…」
何もかも彼の手中にあるようで、なんだかとても気に入らないけれど…実権を握られているこの状況下では、如何とも出来ず…ここは流れに身を任せることにした。