【完】Mrionation
「志野、ほれこっち」
通話を終えると、スーツの胸ポケットにスマホを滑り込ませて、彼は私をエスコートする。
そして、ちゃっかり自分の車に乗せた。
「小窪さんて、ほんっとに強引なんだから」
「ははっ。けど、そうでもしないと志野は懐かないだろー?」
くくくっと笑いながらそう言いつつ、私がシートベルトを着用するのを見ると、ぐぐぐんっとエンジンを掛けた。
そして、スムーズにアクセルを踏んで、会社の駐車場から外へ出た。
私はそれが気に入らなくて口を尖らす。
「私は猫なんかじゃないですー!」
「んー…そうね、どっちかっつーと仔犬?」
「な、ん、で!小動物限定なんですか!」
助手席で怒り狂うと、くすくす笑って彼は言い足す。
「しかも、捨て犬的な?」
「んなっ?!」
「あははっ!いい反応!…と。よし、着いたぞ」
車内でそんな会話をして、反論しようとした所で丁度目的地に着いたようで、彼は私の座席の肩の辺りに手をやって、車を駐車する為にバックした。
いきなりの至近距離にドキドキと胸が脈打つけれど、それには気付かないフリをする。
そして、自分でも意味の分からない、全く脈絡のない話題を投げ掛けた。
「小窪さんて運転上手い、ですよね…」
「ぷっ、何よ?いきなり?そりゃあ免許取ってかなり経つし、乗らない日なんてほぼないからなぁ。それなりに?」
そんなことを言いながらも、器用に私のーシートベルトを「よいしょ」と外すと、外に出るように促す。
外は小雨が降って来ていて、少しだけ肌寒かった。
ふるっと震えた私の肩を見逃すはずもなく…彼は、先に外に出て私を自分のスーツの上着で覆った。