【完】Mrionation
「暁良…って呼んでもいいか?」
そう切り出したのは、付き合うと決めた日からすぐに。
二人きりの時に囁かれるその声は、痺れるほど私の中に愛を溢れさせる。
でも、私はなかなか恥ずかしくて下の名前で呼び合うことが出来なかったけれど、それでも彼は何も言わずに愛してくれた。
なだれ込んでくるような、圧倒的に注がれる彼からの無償の愛。
初めて愛し合った日の、甘く痺れる気怠さと胸の痛みは、この胸に自分が「女性」であることの悦びを思い出させてくれたようで、嬉しかった。
指で触れ合う度に、泣きたくなるほど幸福感で満たされ、もっともっと欲しくなる。
まだ、きちんとした、想いの決心が付かないままの触れ合い。
そのなんとも言えない背徳感と、真逆の正当な人を愛する道徳感の合間に揺れ動き、操られるように踊り続ける私。
愛してる…その5文字では到底片付けられない、二人の間。
想いを温める前の…この関係に、今はきっとただ溺れていたいだけなのかもしれないとさえ思うくらい、確かなものはいつもあやふやな霧の中に包まれている気がした。
付き合い始めたことを知った同僚たちは、皆揃ってこう口にする。
「あんなにイイ男捕まえたんだから、離すなよ」
と…。
でも…離すも離さないも…私達はきっと…互いに自由を求める二人。
いつ何時、どうなるかは分からない。
私は自分の性質をよく知っているから…。
そう、思わざるを得なかった。