【完】Mrionation
人間の気持ちというのは、制限出来る所と出来ない所があって…。
そして…どうしようもなくセーブ出来ない時が、ある。
私は、彼を好きだと心の底から思ってしまう気持ちと、先輩と後輩のまま変わらずにいたいという気持ちの狭間で、揺れ動いていた。
で。
その揺れの中、決定打をくれたのは向こうから。
仕事で凡ミスを繰り返して、上司にこてんぱんに絞られ、給湯室で一人泣きそうになってた時に、突然横にやって来て彼は言った。
「我慢しなくてもいいんでないの?泣くのは別に負けじゃないんだからさ」
ぽんぽん
その言葉に温もりに、私の揺れていた心は思い切り陥落したんだ。
メイクが落ちるのも構わずボロボロ泣き出した私。
その肩を何も言わずにぽんぽんと、宥めるようにして撫でてくれる彼。
「肩肘張っても、貧乏くじ引くだけだぞ」
最後に優しくそう言って、「化粧直せよ〜」と行ってしまったのは、彼の心からの気遣い。
それが、余計に泣けるほど嬉しかった。
好きだという方向に思い切り天秤が傾いた瞬間…。
私は、もう…駄目かもしれない。
そう、思った。
「小窪さーん!これ、此処でいいんですか?」
「おー…そっちは重いからそこに置いといて」
「じゃあ、これ打ち込んじゃいますねー」
二人きりの残業は、課違いだからなんだか気恥ずかしくて、私はちょっとだけ距離を置いて席にすとん、と腰を下ろす。
すると、そのデスクチェアの肘掛けの部分を引っ張られて、コロコロと彼の方に連れて行かれてしまう。
「遠い」
「ちょっと!小窪さんてば!」
「はい、仕事してー」
「んもー!」
人の気持ちも考えないで、なんでも自分の思うようにことを進めてしまう彼。
なのに、本気で怒れないのは、…やっぱり惚れた弱みだろう。
「志野、さんきゅーな」
そんな、ぞわぞわするようなウィスパーボイスと、陽だまり全開の笑顔で言われたら、本当にもう…許してしまうじゃないか……。