【完】Mrionation


人間の気持ちというのは、制限出来る所と出来ない所があって…。

そして…どうしようもなくセーブ出来ない時が、ある。


私は、彼を好きだと心の底から思ってしまう気持ちと、先輩と後輩のまま変わらずにいたいという気持ちの狭間で、揺れ動いていた。


で。
その揺れの中、決定打をくれたのは向こうから。



仕事で凡ミスを繰り返して、上司にこてんぱんに絞られ、給湯室で一人泣きそうになってた時に、突然横にやって来て彼は言った。



「我慢しなくてもいいんでないの?泣くのは別に負けじゃないんだからさ」


ぽんぽん


その言葉に温もりに、私の揺れていた心は思い切り陥落したんだ。

メイクが落ちるのも構わずボロボロ泣き出した私。
その肩を何も言わずにぽんぽんと、宥めるようにして撫でてくれる彼。

「肩肘張っても、貧乏くじ引くだけだぞ」


最後に優しくそう言って、「化粧直せよ〜」と行ってしまったのは、彼の心からの気遣い。


それが、余計に泣けるほど嬉しかった。


好きだという方向に思い切り天秤が傾いた瞬間…。
私は、もう…駄目かもしれない。

そう、思った。



「小窪さーん!これ、此処でいいんですか?」

「おー…そっちは重いからそこに置いといて」

「じゃあ、これ打ち込んじゃいますねー」


二人きりの残業は、課違いだからなんだか気恥ずかしくて、私はちょっとだけ距離を置いて席にすとん、と腰を下ろす。

すると、そのデスクチェアの肘掛けの部分を引っ張られて、コロコロと彼の方に連れて行かれてしまう。

「遠い」

「ちょっと!小窪さんてば!」

「はい、仕事してー」

「んもー!」


人の気持ちも考えないで、なんでも自分の思うようにことを進めてしまう彼。


なのに、本気で怒れないのは、…やっぱり惚れた弱みだろう。


「志野、さんきゅーな」


そんな、ぞわぞわするようなウィスパーボイスと、陽だまり全開の笑顔で言われたら、本当にもう…許してしまうじゃないか……。


< 6 / 41 >

この作品をシェア

pagetop