【完】Mrionation
誰かに操られるような、恋をするのは難しい。
だから、舐められないように虚勢を張って、ちょっと不機嫌な顔をしながら、立ち向かう。
それでも、私は…この恋の始まりに負けてしまった。
誰にでも振り撒く彼の笑顔に焦れて、他の誰かに与える温もりに胸が焼ける。
彼は元来の博愛主義者。
その広過ぎる愛に、胸が灼けそうになるのを何度必死に堪えただろうか…。
「小窪さんて、素敵ですよねぇ」
書類をまとめていると、私の後ろから後輩の七瀬紗理奈(ななせさりな)ちゃんが声を掛けてきた。
それに対して、
「そうだね」
と笑ってみせると、ふとパーティションで区切られた向こうの方から彼がこちらを見ていて…にかっと笑みを投げられた。
それを見ていた紗理奈ちゃんは、私の耳元で小さく囁く。
「なーんか、小窪さんて、志野さんのこと滅茶苦茶可愛がってません?」
「…は?……な、なんで、そうなるの?」
「いや…なんとなく?」
焦って大きな声を出しそうになった私とは裏腹に、彼女はしれっとした涼し気な顔で、にっこりと微笑んだ。
彼女は何気に侮れない後輩かもしれない。