キリンくんはヒーローじゃない
呼んでもないのにマイヒーロー
「狐井さ、古典の江藤にうちらがカンニングしてたこと、バラしたでしょ?」
一限目の古典が終わり、次の授業の準備をしようと鞄を覗いていた時だった。終業のチャイムと共に江藤先生に呼びだされていた件の女子生徒たちが、わたしの机を大きく叩くなり、怒りのおさまらない表情で校舎裏へと連れだした。
「わたし、そんなの知らないけど…」
ただの、濡れ衣だ。
これまでも何回か、 身に覚えのない言いがかりを押しつけられることがあった。最初こそは、必死に自分ではないと否定をしていたけれど、段々と伝わらないことに嫌気がさしてきて、結局、自分のせいにされるのがオチなら否定しても意味がないと、途中で諦めてしまった。
蚊の鳴くように呟いたこの真実の声にも、きっと彼女たちには届いていない。
「あんたじゃなきゃ誰がチクんだよ」
苛立たしげに近くの壁を蹴った彼女は、わたしを視界に入れるとニヤリと笑う。
「あんたが江藤と繋がってんのはわかってんだよ。小テストで毎回満点近い点数をとってくんのも、授業中にキモいぐらい目を合わせてることもな!」
わたしのブレザーのポケットに無理やり手を突っ込み、入っていたものを引っ張りだす。
「なにするの…!」
「ふぅーん…古典文法の参考書ねぇ?」
これ見よがしに、参考書のページを雑に捲っていく。なにか確信めいたことでもあるのだろうか、先ほどからチラリとわたしを覗く目がどこか強気に映る。
「ここら辺かな」
赤シートが挟んであるページに辿り着くと、一旦捲っていた手を止める。恐る恐る自分でも確認してみるが、別段変わった様子もない。赤と黒で統一された、至って普通の参考書だ。
いらぬ心配だったかな、と胸を撫で下ろした時、「ほら、見つけた」と楽しげな声がする。