キリンくんはヒーローじゃない
溢れた愛の掴み方
連絡先を交換したあの日から、メッセージのやり取りはそれなりに続いている。
連絡がマメなほうではないわたしは、キリンくんから送られてきたメッセージに受け答えるくらいだけど、彼はそれでもいいと、色々な話題を振ってくれる。
午前授業終わりの鐘が鳴ると、真っ先に、机に忍ばせていた携帯を取りだす。板書を写すためにノートに走らせていた目が、時々光を放つそれに奪われて、集中できなかった。
開いたメッセージには、なんてことない文字の羅列がぽつりとだけ、書かれている。
『お腹すいた』
『今、僕の嫌いな古典の時間』
『狐井さんは、数学の授業だっけ?』
『眠くなるね』
「…江藤先生に怒られるよ」
いくら、窓際で目立たない位置だとしても、ただでさえ、目をかけられてるんだから、気をつけないとこってり絞られるに決まってるのに、ばかじゃないのか。
「バレなかったの?…と」
鞄の中から弁当と、少女漫画が入った手提げ袋とを取りだし、軽快に返事を打つ。
席を立った瞬間に返信が届く。わたしは、弁当箱を小脇に抱えて、携帯をもう一度握り直し、メッセージを覗く。
『机の中で画面見ないようにして打ってるから、たぶん大丈夫』
そういう問題じゃあないんだけどな。溢れでる自信感に若干呆れつつ、携帯をポケットにしまおうとする。
『今日のお昼って、非常階段で食べたりする?』
さらに届いたメッセージを横目に、わたしは静かに微笑んだ。
『そうするつもり。きたかったらきてもいいよ』
既読がつくかどうかの確認もせずに、今度こそポケットにしまう。小脇に抱えたままだった弁当箱を両手に持ち変え、逸る気持ちで、廊下を駆けた。