キリンくんはヒーローじゃない
非常階段に着き、いつものように弁当箱からサンドイッチを取りだし、齧りつく。
季節はもうすぐ冬になる。怒涛の文化祭が終わって、三年生は自由登校になって、ツキ先輩のいる二年生は受験勉強で忙しそうだった。
わたしとツキ先輩の関係性といえば、思いきり裏切りにあったあの文化祭以来、嫌がらせは疎か、挨拶をされることさえもなくなった。
時期的に忙しくなるし、ふざけている暇もないのだろうけど、平穏な日常が戻ってきてくれて、わたし的には安心している。
スカート越しに触れる階段が冷たい。カーディガンを着ていても、隙間風が微かに通ってくる。冬が本格的に到達したら、非常階段で過ごすのは厳しいかもしれない。
食べ終えた手を、ウェットティッシュで、さっと拭う。手提げ袋から、昨日買ったばかりの少女漫画を引っ張りだす。
今までみたいな、見た目も中身も完璧な王子さまじゃなくて、どこか冴えないヒーローがヒロインを想う、そんな純粋な話だった気がする。
「…あーあ。わたしの理想とは、かけ離れてるのになあ」
どうして、こんなにも頼りないヒーローのことが気になって仕方ないのだろう。
「どれもこれも、…黄林くんのせいだよ」
ページを捲る手が、漫画にかかる黒い影によって、止められた。