キリンくんはヒーローじゃない
救世主は君
「はい、静かに!全体での説明を始めますよ」
昼休みが終わると、 校内放送で体育館に集まるようにと、全体に周知された。昨日まで、班分けなどは各クラスで決めてしまうものだとばかり思っていたけれど、意外と自由なようだ。想像していたより最悪な事態にならなくて、安心する。
体育館の扉を潜ると、既に結構な人数が学年クラス別に集まっている。なんの気なしにD組の列に目を映してみると、最後尾に背中を丸めて膝頭に顎を乗せる、キリンくんの姿があった。
クラスの中でも幾つかのグループができており、みんな、これから始まる林間学校の説明に浮き足立っているようだった。キリンくんは、そんな彼らの輪に交わろうとも、気になる素振りすらも見せず、ただ、スマートフォンに繋げたヘッドホンから流れる音楽に、耳を傾けているだけだった。
ほんとう、キリンくんって変なひとだ。自分が他人にどう思われたって、あまり動じなさそうで正直羨ましい。
「今回の林間学校は、九月三日から四日にかけて行われます。普段関わることのないひとたちとこの行事を通して協力し、親交を深めていけたらいいなと思ってます」
しおりの一ページ目を開くと、祥子先生の言葉通り、ねらいの欄に学年の垣根を越えて周りのひととの交流を深める、と記されていた。
そのままページを進めていくと、どうやら学年という括りはあってもそれは形式上の話で、別段違うイベントを催すわけではなさそうだ。バスに乗る際の席順などは点呼をする都合上、学年クラス別にするようだけど、他のイベントに至っては特に規定はなし。つまり、こちらの判断に任せるとのこと。
「バスの席順は、必ず決めておいてくださいね。当日になって決めるようでは、時間の遅れにも繋がりますし、バスの運転手の方にも失礼になりますので」
各イベントは、クラスごとにまとまらなければいけないわけではないため、なんとかなりそうだけど、問題はバスの席だ。わたしと組んでくれるようなひとは、このクラスにいるのだろうか。