キリンくんはヒーローじゃない
「…と、俺が乗れば最後だな」
運転手さんとガイドさんに、軽く会釈をしてバスに乗り込むと、窓際のわたしに目配せをして隣に座った。
「よろしくな、狐井」
「こちらこそ、お世話になります」
江藤先生はどこまでも雅量の溢れた方だった。実のクラスで弾き者となってるわたしなんて、他のひとから見たら邪魔者でしかないのに、このひとは自分のクラスに招き入れてまで、わたしを救おうとしてくれている。
感謝しかない。彼の働きのおかげで、わたしは今回の林間学校が少し、楽しみになっている。
「さっきは、気恥ずかしくて誤魔化しちまったが、俺はお前のクラスの異変に四月から気づいていたんだ」
窓際の景色を目で流し見ていると、ふと隣で彼がぽつりぽつりと話し始めた。
「気づいてはいたが、確信はなかった。あいつら、無視や言いがかりを押しつけたりはするけど、直接的な暴言や暴力はしないもんな」
確かに。いつも、わたしに手を下すのは周りに人気のない校舎裏か、放課後の教室って相場が決まっていた。
彼女たちは自分の成績が悪い上に虐めの現場まで見られてしまえば、内申点にばつがついてしまうことは想像に難くない。だから、先生たちに見られることを極端に避けていたのだ。
「だけど、なにもないはずはないって授業を通してわかってはいたから、お前が喋ってくれるまで待つつもりでいたんだ」
江藤先生の読み通り、祥子先生に相談をしようとして撃沈していたわたしは、優しく声をかけてくれた彼に素直に話してみようとクラスでのできごとを話したのだった。
「…でも、こんなの言い訳にしかならないよな。気づいたならすぐに助けるべきだった、そのせいでお前に無駄な傷を負わせてしまった。ごめんな」
彼は本気で悪いと思って、頭を下げてくれている。祥子先生なんて、わたしに文句を投げてくるだけで一度も謝ってすらくれないのに、彼は、どうして、そこまで真っ直ぐでいられるのだろう。