キリンくんはヒーローじゃない
そのあとは、自己紹介の流れで、一人ひとりが面白おかしく自分のことを話す時間が、綽々と続いた。
既に余興の順番を考えてきていたヤマノベくんは、みんなの行動にやきもきしていたけれど、どうにもならないと悟ったのか、最終的にはやけくそになって声を荒げていた。
「こちら、サービスエリアとなります。十分ほどの休憩を挟んで出発致しますので、今の間にお手洗いなどを済ませておいてください」
しばらく高速を走っていると、比較的大きなサービスエリアに到着する。バスガイドさんが話しだせば、今まで騒がしくしていた人たちがついと、静かになる。
「十分休憩だって。トイレ、混んでないかな?」
「売店になんか美味そうなものがあったら、買ってこようぜ!」
バスが停車したと同時に、自らの席を立って移動する。それは、トイレ休憩に行く者だったり、売店を覗きに行く者だったりと目的は様々だけれど、ほとんどがバスの外にでるらしいことがわかる。
出遅れたわたしは、なんとはなしに鞄の中を探ってみる。奥底に、蜂蜜味のキャンディーが幾つか転がっていた。
「あ、狐井ちゃんまたね!」
「いいの持ってるじゃん。そのキャンディー、あたしもお気に入り!」
わたしの座席の横を通り過ぎようとした派手めのギャル二人が、手に持っていたキャンディーを指差すと、物ほしそうにこちらをじっと見つめてくる。
「あの、よかったら…」
彼女たちの視線の圧に負け、二つ分、キャンディーを掌に乗せて差しだすと、真白い歯を見せて、豪快に笑った。
「まじで!いいの?ちょー親切じゃん」
「バスの中で騒ぎすぎて、ちょうど喉がカラカラだったんだよな。感謝!」
キャンディーの包み紙を開いて、口に入れると、颯爽とこの場を去っていった。嵐のようなできごとだったな、とサービスエリアへと向かう金髪の後ろ姿を、目を細めて眺めた。