キリンくんはヒーローじゃない
運命に惹かれた
「ここから先の登山は、AとB、CとDの二クラスに分かれて行います。昨夜、雨が降った影響で地面がぬかるんでいる可能性があるので、みんなで協力して気をつけて登頂しましょう!」
目的地に到着したバスから降りると、そこには既にサジマたちの姿があり、D組のひとと連れ立って歩くわたしを、憎悪のこもった眼差しで見つめていた。
自分の計画通りにいかなかったことが、だいぶ悔しかったのだろう。彼女の機嫌は、取り巻きの女子たちがオーバーに宥めなければいけないくらい、すこぶるに悪かった。
わたしは、D組のバスに乗せてくれたことへの感謝を江藤先生に告げて、A組の元に戻ろうと歩を進める。心配そうな表情を浮かばせたキリンくんが、事の成り行きを、じっと静かに見守ってくれていた。
大丈夫だよ。わたし、頑張れる。
「狐井、そっちでは随分とお楽しみだったそうじゃんか」
なるべく目立たないようにと、A組の一番後ろに身を屈めて並んだのに、サジマは列の順番などお構いなしに、人垣をかき分けてわたしの目の前へと躍りでた。
「いいなあ。あたしらも狐井とたくさん喋りたいことがあったんだよ」
今さら、都合のいいことを言われたって、信じられるわけがない。きっと、サジマとってのわたしは、必要な時に自由に動かせる駒のような存在なんだろう。
「…嘘つき」
「嘘じゃねぇよ。D組のバスでは江藤の隣だったって聞いたぞ。…よかったなぁ、堂々とイチャつけて。さぞかし、楽しいドライブだったんだろうよ」
江藤先生に虐めの相談をしていた紙を、うっかりと彼女に見られてから、あらぬ誤解をされてしまっている。何度も否定はすれど、彼女は全く聞く耳を持たず、はぐらかされて終わるのがオチだった。
「どうする?ここからは江藤はいないぜ、お前一人で頑張れんの?」
勇気をだした一歩は、今すぐにでも引っ込んでしまいそうだった。顔を近づけてニヤリと怪しげに笑う彼女は、思い通りの反応が見られたからか、とても満足そうだ。