キリンくんはヒーローじゃない
「まだ決まってなかったりする?」
返答に困って口をつぐむと、雰囲気を察してか、ツキ先輩が助け舟をだしてくれる。
決まっていないどころか、グループを組むことすら絶望的だなんて、目の前の彼には口が裂けても言えないな。
「どこか、余っているところに入れさせてもらおうかなとは…考えてますけど」
「余ってるところ…ね」
わたしの言葉を反芻して、悩ましげな表情を見せる。顎に置いた片手は、落ち着きなくそわそわと動いている。
「そしたらさ、俺の班にきたらいいよ」
わたし、恵まれすぎてどうにかなってしまうんじゃないか。今までのできごとはぜんぶ、王子さまに出会うための序章で、ここからがほんとうの物語だとしたら、わたしにも幸せになる権利はある?
辛い日常を越えた先にある、ハッピーエンド。憧れている少女漫画のヒロインだって、ひどいやっ絡みを受けながらも乗り越えて、好きなひとと結ばれるでしょ?
「月先輩、わたし…!」
彼に手を伸ばしたその瞬間、わたしの身体が宙に投げだされた。気をつけて登らなければいけなかった山道で、申し訳程度に低く設置された柵を呆気なく壊すと、もうなすがままだ。
重力に従って落下していく身体を感じ、そっと目を閉じる。瞼の内が暗くなる前に聴こえた「小梅ちゃん!」と言った声は、誰の声だっただろうか。