キリンくんはヒーローじゃない
「いっ、た…」
身体中を刺すような痛みに襲われて、目を覚ます。落ちた先が、緑の生い茂っている芝生の上でよかった。全身は強く打ったが、どうやら背中から落ちたので、後頭部の損傷は軽いらしい。
「ここは…」
いきなり起きあがったからか、少し目眩がする。だいぶ奥底に転落してしまったようで、周りを見渡しても森や野原が広がるだけだった。
「調子に乗ったばつなのかな」
ツキ先輩に気にかけてもらえて嬉しかった。ツキ先輩の隣にいられて、自分の中のもしもがどんどん膨らんでいって、望んではいけないのに彼のそばにいたいと、願ってしまった。
ばかだな。ツキ先輩はわたしが一人でいることに同情をして、一緒の空間にいてくれただけなのに、なんて盛大な勘違いだろう。
「……消えちゃいたい」
自分が恥ずかしくて、膝を抱えて蹲る。王子さまに手を伸ばすのは、お門違いだった。彼とは住む世界が違いすぎる。
わたしはさしずめ、商店街で林檎を売る果物屋の一人娘ってところだろうか。家来を引き連れて城下町へ訪れた王子さまを目で追うだけの、そんな生活がきっと、似合っている。
「今ごろ、みんな何してるかな…」
わたしが崖から落ちたのを目撃して、助けを求めに走ってくれたかな。それとも、直接助けようと動いてくれているかな。
…いや、高望みはしない。期待だってしすぎない。自分の価値は痛いほどわかってる。