キリンくんはヒーローじゃない
しばらくすると、辺りが暗くなり始め、雲行きが怪しくなってきた。空を見上げ、地面に手をつきながら重たい腰をあげる。
とりあえず、今の状況を把握して行動に移さなきゃな。ずっと何もせずにこの場で待機をしていても、無駄に時間が過ぎてくだけだ。ズキズキと痛む腰を支えて、一歩ずつ確かに歩みを進めていく。
「どこか、身を置ける場所があるといいけど…」
贅沢は言わない。せめて、雨風が凌げて疲労した身体を休めることができるような、そんな場所があればいい。
先ほどよりも天気がだんだんと崩れ始めてきた。ゴロゴロと雷鳴が轟き、雨粒が足元を濡らしていく。
この事態ならば、山登りは中止だろう。被害者面をしながら、下山をするサジマを想像して、思わず胃液が逆流しそうになった。
生徒の避難に必死で、逸れてしまったわたしのことなんて、すぐには気がつかないだろう。麓の宿に到着して、人数確認をする際にやっと、という感じだと思う。
ああ、それとも、キリンくんと江藤先生なら気づいてくれるかもしれない。
少しの希望に胸を高鳴らせると、急に目の前がぼやけ、意識が遠くなった。