キリンくんはヒーローじゃない
キリンくんの言おうとしていることがわからない。ツキ先輩はキリンくんが思っているような、そんな軽いひとじゃない。わたしのことを一生懸命に心配してくれて、守ってくれようとした素敵なひとだ。
「黄林くんがなにか勘違いをしているんだとは、思うけど…」
その勘違いの内容が甚だ想像がつかないのだから、解決のしようもない。 重い腰をあげつつ、もう少し彼の気持ちに寄り添ってあげられたらよかったな、と思う。
だって、今日のキリンくんはいつもとちょっと違ってた。
階段を登ってきて、わたしの漫画を盗み見た時は、どこか上の空だったし、わたしのしょうもない軽口にもしばらくは受け流せず、終いには反論してきたし、思えば林間学校が終わったすぐあとくらいから、心ここに在らずって調子だった気がする。
わたしの知らないところで、なにか悩んでいたのかな。林間学校でわたしの手当てをしてくれていた時に、ツキ先輩に強い敵対心を抱いていたみたいだから、そのことかな。
顔いっぱいに不満を貼りつけたキリンくんのことを、どうもこのまま放っておくことができず、綺麗な状態で手渡された漫画を手提げ鞄に戻す。
昼休みが終わるまで、あと三十分近くある。ほんとうはこのまま、漫画の世界に浸って一人の時間を満喫するつもりだったけど、仕方がない。
わたしは手提げ鞄を左肩にかけ直して、駆け足で階段を降りていった。