キリンくんはヒーローじゃない


早速、D組の教室を覗き、キリンくんの姿を探してみる。彼の席は意外とすんなり見つけられたが、当の本人がおらず、その辺りはひっそりと静まり返っていた。


これは困った。

キリンくんとわりと行動を共にしているくせに、彼の行きそうなところが全く見当たらない。いつの間にか、彼がわたしのそばにきてくれることが当たり前になってて、自分から会いに行こうとしなかった。甘えてたのだ。


「友達とか言っておいて最低だな、わたし…」


溜め息をつきながら、D組の教室に背を向けると、目の前に見知った蜂蜜色が飛び込んできた。


「狐井ちゃん、どうしたの?」

「狐井ちゃんから、D組を訪ねるなんて珍しいじゃん」


金髪ギャル改め、美也子と千津が濡れた手をハンカチで拭いながら、問いかけてきた。


「誰か探してる?あたしらで呼んでこようか?」


風で煽られた前髪を乱暴に搔きあげた美也子は、涼やかな香りを漂わせて教室の中に入っていく。


「みやっち、待って。まだ誰を呼ぶか聴いてないじゃん!…ね、誰の呼びだし?」


千津の長い髪が、わたしの唇を掠める。瞼に散らしたオレンジ色のラメが、甘ったるくて柔らかな彼女にとても似合っている。


「…えっと、」

「ゴローちゃん?それとも、エリー?」


千津との距離が、さらに縮まる。捲し立てられる名前に否定をして、キリンくんの名前を言おうと口を開く。

< 49 / 116 >

この作品をシェア

pagetop