キリンくんはヒーローじゃない
早速、D組の教室を覗き、キリンくんの姿を探してみる。彼の席は意外とすんなり見つけられたが、当の本人がおらず、その辺りはひっそりと静まり返っていた。
これは困った。
キリンくんとわりと行動を共にしているくせに、彼の行きそうなところが全く見当たらない。いつの間にか、彼がわたしのそばにきてくれることが当たり前になってて、自分から会いに行こうとしなかった。甘えてたのだ。
「友達とか言っておいて最低だな、わたし…」
溜め息をつきながら、D組の教室に背を向けると、目の前に見知った蜂蜜色が飛び込んできた。
「狐井ちゃん、どうしたの?」
「狐井ちゃんから、D組を訪ねるなんて珍しいじゃん」
金髪ギャル改め、美也子と千津が濡れた手をハンカチで拭いながら、問いかけてきた。
「誰か探してる?あたしらで呼んでこようか?」
風で煽られた前髪を乱暴に搔きあげた美也子は、涼やかな香りを漂わせて教室の中に入っていく。
「みやっち、待って。まだ誰を呼ぶか聴いてないじゃん!…ね、誰の呼びだし?」
千津の長い髪が、わたしの唇を掠める。瞼に散らしたオレンジ色のラメが、甘ったるくて柔らかな彼女にとても似合っている。
「…えっと、」
「ゴローちゃん?それとも、エリー?」
千津との距離が、さらに縮まる。捲し立てられる名前に否定をして、キリンくんの名前を言おうと口を開く。