キリンくんはヒーローじゃない


「…黄林くんってどこにいるか、知ってる?」


わたしの言葉を聞いた千津は、一瞬だけポカンとして、思い当たったのか両手をパチンと叩いた。


「あの前髪ナガオね!いつも音楽聴いてたり、本読んでたりで深く関わったことないから、ピンとこなかったや!」


林間学校の班決めの時も思ったけど、キリンくんって一人の世界をじっくりと楽しんでいるから、クラスメイトとの関わりも最低限のことしかしていないんだな。それなのに、わたしに対しては、毎日飽きもせず話しかけてきてくれて、なんだかちょっとむず痒い。


「あー、確かキリンなら…二階に駆け下りていった気がする。片手で前髪を押さえてて、自分の表情を見られたくなさそうな感じだったな」

「さすがみやっち!うちら、トイレに行く前だったから声かけたりはできなくて…。ごめんね」


他人に表情を見られたくないほど、必死に前髪を押さえる理由って、一つしか思いつかない。もしものことを考えて、胸が締めつけられた。


「…ごめん、ありがとう!」


いてもたってもいられず、二人にお礼を告げて、踵を返す。


「前髪ナガオ、見つかるといいね!」

「キリンな…。なにがあったかは知らないけど、頑張んなよ」


美也子と千津の温かい応援を受けながら、わたしもあの二人のような素の関係をキリンくんと築きたいな、と思った。

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