キリンくんはヒーローじゃない


階段を勢いをつけて、下る。二階に着いて、職員室前を通ると控えめに開いた扉から、話し声が聴こえた。


「んー…よく見えないな…」


二階には、教材室、保健室、職員室の他に各教科担当の準備室がある。この中で生徒が行きそうな場所といえば、職員室と保健室ぐらいなんだけど、保健会議をやるとかで保健室は札がかけられてるし、消去法で職員室しかない。


扉に片耳を当てて、中の様子を確かめる。話し声の感じだと、昼時だからかあまりひとの気配がなく、いるとしても二、三人程度っぽい。こっそり入ってしまえば、バレないんじゃないかとも思うが、さすがに不法侵入はいけないと良心が痛む。


せめて、もう少し中が見れないかと手を伸ばして扉に触れようとすると、すんでのところでガラリと、開け放たれてしまった。


「あれ、狐井じゃないか。こんなところでなにしてんだ?」


終わった。怪しい行動をしているのを間近で見られた。江藤先生は特に気にする様子もなく、わたしに話しかけてくれるけど、後ろからひょっこりと顔をだしたキリンくんには、思いきり引かれている。


「…いや、あの、」


突然のことで、言い訳すらでてこない。もう、一層のことほんとうのことを言ってしまおうか。キリンくんには、冷たい目で見られているし、今さら繕うなんてばからしい。


「実は…」


ほんとうのことを言おうと決意したわたしは、いつもとなにか違うことに気づいて、口を押さえた。

待って。わたし、今、なんて言ったっけ。

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