キリンくんはヒーローじゃない
キリンくんには冷たい目で見られているし…って、キリンくんは前髪を目の下まで伸ばして、表情を悟られないようにしているひとだよね?
「…狐井?ちょっとお前、どうした?」
菫色の大粒のビー玉が二つ、ころんとゆっくり転がる。
「え、あ、…黄林くんですか?」
菫色は、瞼の奥に雲隠れをしたあと、三日月を静かに登らせた。
「うん、黄林皐大です」
村人Aだと勘違いしていた男の子は、実は隣国の王子さまだったなんて、筋書きはあり?
「いやあ、あんなに髪の毛を変えたくないと渋ってた黄林が、どういう心境の変化だ?…ま、これも恋の変化だと思えばかわいいもんよな」
「…江藤先生!」
「はいはい、部外者は退散しますよー」
ニヤついた表情は隠しもせずに、職員室に戻っていく。キリンくんは、可哀想なくらい顔を真っ赤にして、しっしっ、と強引に手で追い払っている。
「…黄林くん」
「…狐井さん」
今まで前髪で隠されていた分、落ち着かないのか、髪を押さえているピンに忙しなく触れている。
「あの、さっきは無神経なこと言って、ごめんね。黄林くんの様子にも気づいてあげられなくて、ごめん」
謝る声は、震えていた。偉そうに友達だと言っておきながら、その言葉に甘えていたのはわたし自身だ。キリンくんは、いつだってわたしを知ろうと、守ろうとしてくれてたのに、無下にしたのはわたしだった。