キリンくんはヒーローじゃない
「わかんないなら、見せてやるよ。自分のしたこと、ちゃんと思いだせよ」
サジマの携帯を受け取って、噂の原因となるそれを見た。
「え、…なにこれ。ぜんぶ捏造…」
映された画面は、メッセージアプリの会話部分だった。Mondという名前のひとからサジマへ、とある写真を何枚か送っている様子で、その写真のどれもにわたしとキリンくんの後ろ姿らしきものが映っている。
「捏造じゃねぇよ。どう見てもお前だし、このモサオ、イメチェン前の黄林皐大だろうが」
別に決定的な場面が映っているわけではない。屋上へ続く階段での密会を撮られているだけだ。焦ることはない、友達だと言っても通るはずだ。
「勝った、とでも思ってるわけ?あたしがこんなショボイ証拠で、あんたに太刀打ちするわけないでしょ」
サジマは慣れた様子で、携帯を操作して、わたしに再び渡した。画面に映っていたのは、あの日、わたしに理想の男になると宣言してくれたキリンくんの姿で、しっかりと手を握っている。
「あと、これね」
なんら怪しい写真ではない。階段で好きな少女漫画について熱弁して、呆れられているわたしってだけ。
ああ、そういえば、天気予報が大外れで突然の大雨が降ってきて、雨漏りした天井から、わたしの髪の毛に落ちてきたんだっけ。
大袈裟なキリンくんは濡れたわたしのことを心配して、一つ分大きな背中を少し屈めて、カーディガンで優しく拭ってくれたんだった。
「そ、別に変な写真じゃない。でも、見ようによってはキスしてるようにも見えるっていう、最高のやつじゃない?」
サジマの考えていることが、全て読めた。きっと、彼女はわたしとキリンくんが付き合ってるなんて、はなから期待してなかった。今、人気のあるキリンくんと底辺のわたしをぶつけることで、学校中のひとを敵にしようとしてるんだ。