キリンくんはヒーローじゃない
「…なんですか、それ」
大きい丸に、四本足みたいなのが繋がってて、たぶん動物なのはわかるんだけど、いまいち正体が掴めない。
「んー?小梅ちゃん」
流れるペン先が、わたしの名前を呼ぶと同時に止まる。四本の足があるのに、動物じゃなくて人間だったのか。しかも、よりによって他の誰でもなくわたしを描いてくれた、らしい。
「わたし、ですか?」
「小梅ちゃん、ですよ」
嬉しいのか、嬉しくないのか、よくわからない感情に振り回されながら、先輩の描いてくれた絵にじっと、目を凝らす。
「…先輩から見たわたしって、こんな感じなんですか?」
「え、ちょっと待って。なんか変?」
見れば見るほどよくわからない絵だ。四本足は理解不能だし、顔はのっぺらぼうだし、絵に添えられた"ウガー"って言葉はどういう意図で書いたのか察しづらい。
「ごめん。…でも、ほんとうに嫌がらせとかじゃなくて、小梅ちゃんに元気だしてほしくて」
「元気?」
「きっと、色々俺の知らないところで頑張ってるんだろうなって、薄々感じてるし」
掌に食い込まれた爪痕をゆるりとなぞって、目を伏せる。
「一緒にいれることが少ない分、やっぱりそばで守れないのは気がかりだから、俺の絵を見て、元気を分けてあげられたらなって思ったんだ」
なんだそれ。めちゃくちゃ、わたしに対しての愛がこもってるじゃん。恥ずかしすぎて、日誌を持っている指先が、火傷しそう。意味がわからないまんまだったこの変な絵も、意味を聞いたあとなら、愛おしく思えてきて、胸がうるさく高鳴る。
「ちょっと、…臭かった?」
臭いなんて、とんでもない。わたしだけを想って告げた台詞なら、どんなものだって宝石みたいに輝くんだ。