キリンくんはヒーローじゃない
「綿貫さん。気持ちは嬉しいんですけど、僕、好きなひとがいるので、ごめんなさい」
綿貫毬子は、丸かった目をさらにまあるくして、はらりと一雫を落とした。
「目が腫れてしまうといけないので…、嫌でなければハンカチをどうぞ」
キリンくん、振るならこっぴどく振ってあげなきゃ、未練が残るに決まっているでしょう。ああ、ほら、貰ったハンカチを両手で抱きしめて、幸せだって顔をしてる。
「黄林くん、…ありがとうございます」
かわいい子って、泣き方すらもかわいい。大きな声をあげて、涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃの顔にするわたしとは大違いだ。
「黄林くん…。せめて、抱きしめてはくれませんか?」
「それぐらいで、いいなら…」
キリンくんがエスコートするように、優しく手を引っ張った。胸元に落ち着いた綿貫さんは、力の全てで抱きつき、五感を使って余すことなく、彼を感じているようだった。
「なにあれ、…ずっる」
ちくりと胸を刺す痛みは、思っていたより傷が深くて、ズキズキする。
「綿貫さん、勇気をだして告白してくれてありがとうございました」
「…うん。こちらこそ、我儘を聞いてもらっちゃってごめんね」
綿貫さんが階段を下りて見えなくなるまで、キリンくんは深い礼をして最後まで見送ってくれていた。