キリンくんはヒーローじゃない
「拗ねた顔して。タコみたい」
廊下の端で、不細工な顔を見られたくなくてうずくまっていたら、自然と隣に座られて、ゼロ距離で見つめられた。
「…綿貫さんに、嫉妬した?」
「してない…」
「嘘だ。全然、目見てくれない」
嫉妬しました、って素直に言えるほど、わたしはかわいい性格じゃない。しかも、外見を変えた直後に、吊り橋効果みたいにドキドキしだすって、なんか卑怯な感じがして、苦手だ。
「言っておくけど、僕、今までだってこれからだって、狐井さん一筋だから。…覚悟しておいて」
子犬って言ったの、誰だ。仕草も、表情も血気盛んな狼のようじゃんか。詰められる距離に、耐えられなくなって、慌てて自分の顔を隠した。
「かわいすぎ」
「…君は変わりすぎ」
「狐井さんが、変えたんだよ」
なにをばかなことを言ってるんだ。わたしは、キリンくんのそばにいただけで、力になることはなにもしていない。変えられたのは、キリンくんの努力ゆえだ。
「…早く、狐井さんの心を奪えたらいいのにな」
わたしが絆されるのが先か、キリンくんが諦めるのが先かのどちらかではあるけど、あきらかにわたしに対しての分が悪いから、早々に退場のゴングを鳴らしてもいいですか。