キリンくんはヒーローじゃない
「小梅ちゃん、俺と付き合ってくれるってほんとう?」
「…え、そんな話どこから」
キリンくんと階段の踊り場で分かれ、自分の教室に戻ろうとした時だった。まさに有頂天な様子のツキ先輩に話しかけられ、顔を覗かれる。
「そこで黄林くんと会ってさ、しかめっ面でおめでとうございますって言われちゃった」
相手の余裕が考えられないほど、機嫌が悪かったんだろうな。わたしよりも先に返事をしてしまったキリンくんに対して、怒りよりも同情が湧いてきた。
「じゃあ、改めて、よろしくね」
「こちらこそ、…お願いします」
ぎこちない握手は、二人のタイミングが合わずに、何度か空振りしたけど、初々しくてなんだか胸がいっぱいだ。
「…小梅ちゃんさ、そろそろ俺のこと、先輩抜きで呼んでくれてもいいんじゃない」
ツキ先輩の言葉に、首がちぎれるほどに振って、否定する。
「無理です…。恥ずかしくて、呼べません」
「…まあ、追い追いね」
恥ずかしすぎて、ツキ先輩の顔がまともに見られない。このひとが、わたしの彼氏なんだって、自覚すればするほど、頭がパンクしそう。
「デート、どこに行こうかなあ」
「ま、まだ早いですよ…!」
自然と絡み合った指先は、どちらからともなく握った。