キリンくんはヒーローじゃない
魔法が解けてしまう前に
ツキ先輩と付き合い始めて、二ヶ月弱。心配していたやっ絡みも、嫌がらせもされることなく、平和な毎日を過ごしていた。
「もうすぐ、文化祭だね。小梅ちゃんのクラスはなにをするの?」
立ち寄った屋台で、餡をたっぷり含んだ鯛焼きを購入して、齧りつく。はらはらと舞い落ちる紅葉は、辺り一面を赤い絨毯にして、鮮やかな芸術を見せてくれる。
「わたしのクラスは、確かシンデレラをやるって言ってました」
「へぇ。小梅ちゃんもでるの?」
「…まさか。裏で頑張ります」
文化祭の演目がシンデレラに決まった時、憧れていたあの世界に自分も入れるんだって、浮き足立ってた。結局は、主演ならぬ脇役にすら手は挙げられなかったけれど、自分の見切りはしっかりとつけているつもりだ。
わたしは、あの煌びやかな舞台には立てない。シンデレラ役に決まった、可憐な女の子を見て、強くそう思った。
「裏方かぁ。…文化祭、回れる時間とれるかな?」
「どこかで休憩一時間くらいとれるはずだし、大丈夫だと思います」
「俺の時間と被るといいな」
「まあ無理そうなら、前後の子に頼んで休憩代わってもらえばいいし、なんとかなりますよ」
ツキ先輩とのことがあってから、少しずつだけど、クラスの子とも打ち解けられるようになってきた。今でもなんとなく、サジマのことは恐怖の対象でしかないんだけど、サバサバとしているからか、わりと接しやすくて、気づいたらよく話してる。
それと、林間学校のバスの席決めでちょっと話した、マドカちゃん。罪悪感もあってか、彼女のほうからおずおずと話しかけてきてくれることが多い。
そんな二人と、おんなじ壁面装飾の係になって、サジマ、わたし、マドカちゃんの順に休憩の交代をしていくってどんなミラクルなのか。
「わたし、すごく楽しみだな…」
あんなに苦手だったクラスのひとたちが、案外いいひとたちなんだって知って、歩み寄りが足りてなかったことを、後悔する。みんなで作りあげる作業が今からとても楽しみだし、頑張りたいと思う。