キリンくんはヒーローじゃない
「相変わらず仲良いんだ」
「そんなことないよ。しょっちゅうしょうもない喧嘩して、折れるのはいつもわたしのほうだし、…拗ねると長いし」
昨日も、メイド服を着ている自分を見られるのが嫌で、分かれ道に着くまでずっとわかりやすく拗ねてたな。結局、寝る直前にメッセージをくれて、お詫びとして幼稚園時代のお遊戯会のビデオを送ってくれたっけ。
こんなので妥協されないって、意思を固く持って観たけど、開始十秒で脆くも崩れ去った。
だって、道端の小石役なんて、他の子に埋もれてしまうそれに、必死に取り組んでいる姿がかわいくて、撮影中の実母の声と共に、夜更けに大声で叫んでしまった。
「面倒臭くても、気分屋でも、好きなのは変わらないくせに」
緑の花紙をくしゃくしゃに丸めると、立てかけてあった裸の大木の枝に、次々と貼りつけていく。
「黄林くんのところは、赤ずきんの劇をやるんだっけ」
「…そう。ただいま森の製作中」
「せっかく黄林くん、クラスを越えて学校中の人気者になったんだから、出演すればよかったのに」
真白い画用紙の上に、赤を垂らして炎を焚べらせていく。火の回りを囲うように四角く煉瓦を積みあげていけば、完成に近い。
「外見は変わっても、中身は集団行動が苦手なガキのまんまだから。他人と協力して台詞回すの、無理」
いくつもの大木を完成させると、今度は赤ずきんが摘んでいくであろう花の製作をし始めた。
「そっか。黄林くん、舞台映えしそうな見た目してるのに、残念」
「そういう狐井さんは、なんで舞台装飾グループにいるの。シンデレラにでようと思わなかったの」
はたと、視線を感じて、キリンくんのほうへ向く。真剣な眼差しには、わたししか映っていない。