キリンくんはヒーローじゃない
「ほら、シンデレラ役の美琴ちゃん。綿貫さんみたいにかわいいでしょ」
透明のドレスに身を包み、控えめに声を漏らして笑う彼女は、誰が見てもかわいい。一つひとつの反応も表情も、大袈裟にころころ変わるから、愛らしくて守ってあげたくなる。
「わたしは美琴ちゃんのように、望まれたシンデレラになることができない。卑屈なわたしは、煌びやかな舞台にあがることすら、できない」
自分の立ち位置は、これまでの経験で痛いほどわかったきたつもり。シンデレラは、わたしじゃない。
「ふぅーん…」
キリンくんはできあがった花を、即席の箱の中にしまい込み、肘をつく。
「要は、自信がなかっただけ?」
「え?」
「周りがみんながって、気にしすぎ。自分がシンデレラとして演じる自信が持てなかっただけでしょ」
自分は理想のシンデレラ像に合わない。かわいくないんだから、やっても笑われるだけ。キリンくんの言葉は、苦しいくらいに図星だった。
「僕は、狐井さんの演じるシンデレラも、観てみたかったけど」
ギザギザに切られた段ボールの型の上に、明るい絵の具で塗っていく。ポンポンやビーズで華やかに飾りつけをしたあと、満足そうにわたしの頭に乗っけた。
「大丈夫。ちゃんとかわいい」
キリンくんの飾らない言葉が、嬉しくて窮屈で、胸が痛い。そんな、愛しいものを見るような目で、わたしを映さないでよ。大事そうに、段ボールでできたティアラを、支えないでよ。
信じられない。わたし、キリンくんにドキドキしてる。