キリンくんはヒーローじゃない
「教室で着るのが恥ずかしくて、ここで採寸しようと思うんだけど、手伝ってくれる?」
先輩は、ドレスとドレスの間に挟まれたある洋服を雑に引っ張ると、わたしの頭めがけて放り投げてきた。
「なに、するんですか…」
頭に被ったそれをずり下ろして、目に入れれば、自分の口角が自然とあがるのを抑えることができなかった。
「不本意だけど、…よろしく」
「はい!頑張ります」
手の内にあるフリルの主張が強めなメイド服を、シワなく伸ばして、笑う。あんなに嫌がってたくせに、変なの。
先輩のワイシャツをピンと張らせて、メジャーを当てる。両腕の長さ、胸囲、ウエスト、腰回りと順を追って測っていく。残るはヒップと両足の長さを測るだけになった時、目の前の臀部を目にして、手が止まる。
「顔真っ赤。…ほら、続けてよ。サイズが違かったら、委員長に届けでないといけないんだからさ」
「…でも、」
メジャーを床に置いて、熱くなった顔を両手で隠す。これは必要なことで、ツキ先輩だってなんとも思っていないことはわかっているんだけど、わたしが耐えられない。
「手、回して」
掴まれた手首は、ツキ先輩のお臍下に持っていかれて、うだうだ言っている最中に拾われたであろうメジャーを、伸ばして、当てられる。
カチカチ、と大きくなっていく目盛りが、わたしの心臓と呼応する。
「力、入れて」
わたしの意思とは正反対に動かされた掌は、固く張られたそれに触れて、思わず飛びあがる。
「89.3cm、と」
尻餅をついて、バタバタと慌てているわたしを気にも留めずに、測ったヒップサイズをメモ用紙に書き記していく。
「どこ触ってんの、…ヘンタイ」
書き終わった先輩が、意地悪そうにわたしの耳にそう囁くと、口角をあげてニヤリと笑った。