キリンくんはヒーローじゃない


「サイズ面は特に問題なさそうだね」

「はい。でも、丈が少し短めなので、パニエなどを履いて調節してみるのもいいかもしれません」

「わかった。委員長に相談してみるね」


丁寧に四つ折りしたメイド服を、自分の脇に置いて、真剣に頷く。なんだかんだ言って、真面目に取り組んでくれようとするツキ先輩が好きだ。


「…そうだ、これ」


先輩は、徐にズボンの後ろポケットを探り、わたしの掌になにかを乗せる。


「さっきさ、黄林くんがティアラを作って、小梅ちゃんに渡してたでしょ」


ツキ先輩と顔を合わせる前の、ことだ。シンデレラを演じる自信がなくて落ち込んでいたわたしに、キリンくんが段ボールでティアラを作って、魔法をかけてくれたんだった。

わたしはかわいい、大丈夫だって、別に特別ななにかがあるわけじゃないけど、そのストレートな表現が、ただ単に胸を刺して苦しくなった。


「俺より先に小梅ちゃんを喜ばせてるあいつが嫌で、…後出しで情けないんだけど、受け取ってくれると嬉しい」


手の内には、青い石が嵌められた素敵な指輪が、電気の光を受けて転がる。


「俺たちのやる喫茶店で、来店してくれたお客さんに、土産として雑貨を送ることになってて、…この指輪もそう」


親指と人差し指でリングの部分を掴み、もう片方の手でわたしの手首を引く。


「本物の指輪と比べたら、大したことなくて安っぽいものだけど、小梅ちゃんの瞳に映るのは、いつだって俺でありたいから」


左手の小指に、指輪を入れる。サイズの合っていないそれは、動くたびに指先へずれ下がって、ほぼ意味がない。しかし、わたしの心を揺さぶるには充分すぎるものだった。


「…幸せすぎて、どうしよう」

「幸せにしたいからしてるんだよ。素直に受け取ってよ」


震える手で、小指に嵌められた指輪に触れる。魔法使いの魔法で、綺麗に着飾ったシンデレラは王子さまと思いが通じ合って、幸せになるのだ。わたしも、願っていいのかな。

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