キリンくんはヒーローじゃない
「…赤ずきんちゃん、これからどこへ行くんだい?」
周りが思わずしん、となった。キリンくんはその様子を一瞥し、特に声をかけることもなく、演技を再開させた。
「なんだあの、パワープレイ…」
やりかたは荒っぽさが目立つけど、キリンくんの思い切った行動のおかげで、周りが静まった。さすがだと、思った。
演技の練習をしにきているのに、過度な応援のせいでできなくなるって、本末転倒だもんね。
「…すごいなぁ」
いつの間に、自分以外のことを考えられるようになったんだろう。強気な目をして、演技に取り組めるようになったのはいつからだろう。
わたしが気づかなかっただけで、彼はいい意味で変わっていっている。
ずるいなぁ、格好いいよ。
「…狐井、最高に余計なこと、言うよ」
「なにその前振り…」
「あんた、やっぱりさ、黄林皐大を目に映している時が一番嬉しそうだよ」
サジマに、キリンくんとのことを諭されるのは二回目だ。最初は、ツキ先輩のこともあって別れさせようとしているのかと思ったけど、どうも違うっぽい。
言いたいことを無理して押し込んでる、そんな辛い表情をしている。
「黄林くんは友達。それ以上でもそれ以下でもない」
「嘘だ」
「嘘じゃない。わたしのこと、なんにも知らないくせに、決めつけないでよ」
肩を抱いている手を引き剥がし、サジマから離れる。今さら、友達ぶって接してきても、過去は消えない。虐められた事実は、ふとした瞬間に心の中に灯って、燻るんだ。