キリンくんはヒーローじゃない
「狐井、円陣組むって」
A組に戻ってきたわたしを呼び止め、サジマが手招きする。
「あー…、わりと熱いクラスだったんだね、A組って」
知らなかったし、知ろうともしなかった。クラスで協力だなんて、まずサジマが許してくれないし、みんなも周りを気にして声をかけてくることはなかったから。だから、こういう擽ったいのは、初めてだ。
「徹底的にあたしが狐井を追いだしてたから、…知らなかったよな」
「うん。…わかりあえるとも思ってなかったし」
サジマはわたしの肩に手を回して、視線を落とす。
「狐井のこと、なんにも知らないで虐めてごめん。あんたの下手くそな笑顔を見た時、なんてことをしてたんだろうって、自分の愚かさに気づいたんだ」
いつの間にか、わたしの右肩を抱いていたマドカちゃんが、息を詰めた。
「許してもらえるとは思ってない。それくらいひどいことをしてきたって、自覚はある。…でも、これだけはわかっていてほしい」
サジマが、どこか不安げな眼差しでわたしを見つめる。
「あたし、狐井のこと、…嫌いじゃないよ」
ばかじゃないの。今さら、許せるわけがないじゃない。左肩に回されたサジマの腕に青痣ができそうなくらいの力で、抓る。彼女はとても痛がっていたけど、言い返したり、やり返したりはしなくて、ずっと耐えていた。
「わたしからも、…ごめんね」
マドカちゃんが、わたしの隣にピタリとついて、小さく謝罪をする。
「佐島さんの意に反することをするのが怖くて、狐井さんの言葉かけにも素直に返事できなかった。…今さら虫がいいってわかってる。だけど、わたしも言わせてほしい」
席決めの時の、あのオドオドとしているマドカちゃんでは、もうなかった。
「わたしも、狐井さんのこと、…大好きなんだ」
サジマも、マドカちゃんも、なんなんだ。了承して、今までのことをすべて水に流して仲良くなろうだなんて、そんな都合のいいことできないのに。