キリンくんはヒーローじゃない


でも、ここ数日、彼女らと関わってきて、クラスにもなんとなく打ち解けてきて、実はそれなりに心地がよいことに気づいてしまったんだ。


時々、過去を思いだしては、いつ裏切られるんだろうって、深く入り込めない自分がいるけど、だけど、伸ばしてくれたその手に甘えてみれば、信じられないくらい温かい世界が広がって見えたんだ。


ぜんぶを許したわけじゃない。わたしの心も全開にしたわけじゃない。


「…うん、ありがとう」


それでも、信じてみたいと思ったから、わたしは目の前の道を突き進んでみる。


「一年A組、シンデレラ!絶対に優勝してみんなで夢の国に行くぞ!」


全員の声が綺麗に揃う。優勝してもしなくても、準備期間の間に培われたこの団結力は、崩れることはきっとないだろう。


「狐井、張り切ってミスすんなよ」

「黄林くんの狼を気にして、手が動かないなんてこと、やめてよね」


サジマとマドカちゃんが、憎たらしい顔で、裏方係のワッペンをつける。


「確かに。ステージで台詞飛ばしただけでもハラハラしてそうだよな」

「転んだら真っ先に駆けつけて、劇なのにもかかわらず、心配しちゃうんだよねぇ」


好き勝手に並べている二人を無視して、体育館へと歩みを進める。そんなわたしを見て、怒ったと勘違いしたのか、急いで駆け寄ってくる。


「ね、狐井さん…やりすぎたかな」

「気に障ったなら、…謝る」


塩らしく表情を伺う二人に、首を左右に振ってみせた。


「怒ってないよ。…早く、体育館に行って準備終わらせちゃおう」


一歩一歩、踏みしめる階段が、いつもよりも軽く思えて、気分も晴れやかになった。

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