キリンくんはヒーローじゃない


体育館の舞台裏に着くと、その気持ちは一瞬で地に落とされた。


「なにこれ…」


ハンガーに掛けられていた、一年A組と一年D組の衣装が、バラバラにハサミで刻まれていた。

それから、わたしが作ったであろうシンデレラの家の背景も、黒い絵の具でぐちゃぐちゃに塗りたくられていた。


「こんなの、誰が…」


一足遅くやってきたサジマとマドカちゃんは、目をまんまるくして、言葉を失っていた。


「このままじゃ、劇なんて…」


切り刻まれた衣装の欠片を集めて、必死に繫ぎ合わせようとする。せっかく、クラス全員に纏まりがでてきて、一つのことに向けて頑張ろうって意思が強くなったのに、こんな現状を見られたら、盛り下がっちゃうかもしれない。


どうにかしないと。みんなの頑張りを無駄にしたくない。


「うわ。…ひでぇな、これ」

「誰だよ、台なしにしたやつ」


そうこうしている間にも、クラスのひとが入ってきて、目の前に広がる惨状にそれぞれが文句を漏らしている。


「わたしの着るはずだったシンデレラのドレスまで…、どうして」


美琴ちゃんが、目に大粒の涙を浮かべて、泣きじゃくる。


「しかもA組だけじゃなくて、D組の衣装も破られてんじゃん。…一年の演劇を潰す気かよ」


本番開始まで、あと三十分足らず。どんなに急いで修復をかけたとしても、間に合う保証はない。このまま辞退を申し入れるほうが賢明なのか。


「つーか、昨日の準備の段階で、誰が遅くまで残ってたっけ」


諦めたくなくて、集めた切れ端をテープでくっつけようと、手を伸ばした時だった。異様に静まった空気に、動かそうとした手が止まる。

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