キリンくんはヒーローじゃない
結果として、三年生の演技は見惚れるほど上手で、完敗だった。
A組は上位に掠りもしなかったが、美琴ちゃんの切ない演技が見事観客のハートを撃ち抜き、異例の特別賞をもらった。
「特別賞をもらったのは嬉しかったけど、景品、なんとかならなかったのかなぁ」
マドカちゃんが一つの紙切れを、ひらひらと宙に掲げて、呟く。
「屋台千円分無料券。…もらえるものはもらっておくけどさ、小学生じゃないんだからこんなので喜ばないって」
サジマも同じことをして、目を細める。どんなに透かして見ても変わりようのない紙に、溜め息を吐く。
目線の遠くで、一部の男子生徒たちが無料券片手に喜び舞う姿が見えたのは、彼女に教えないでおこう。
「千円分、なにに使おうかなぁ。…あ、月先輩のところ、執事メイド喫茶やってるんだ」
マドカちゃんが文化祭のパンフレットを覗きながら、どこにお金を使おうかと吟味している。
「男子が女装するったって、実質、月先輩はホストじゃんね?貢ぐ女の子一杯いそう」
ツキ先輩は顔がいいから、あんなに渋っていたメイド服もきっと着こなして、老若男女問わず、人気がでちゃうんだろうな。
「…うん、絶対そう。狐井さんは、月先輩の彼女なんだから、周りの女の子に負けちゃダメだよ!わたしの無料券も使っていいから、月先輩に貢いでおいで!」
「…それ、いい考えだな。あたしのもやるから、月くんのところ、行ってきなよ」
渡されるがまま、無料券を受け取ると、まだ休憩時間でもないのに、舞台裏から追いだされる。
サジマとマドカちゃんの表情を伺うも、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるだけだった。
「ちょっと、わたしまだ…」
「いいよいいよ、早めに行ってきて!今は比較的男子率が高いし、人数も事足りるでしょ」
そうして、世話焼きな二人に背中を押されながら、体育館を飛びだし、無料券三つを握りしめて、二年生の教室に向かうのだった。