キリンくんはヒーローじゃない


「教室でのあんたを見て、びっくりした。ショーコ先生に呼びかけられているのに、どうでもいいような顔で小声で返事して、一々睨みを利かせていた。そんなんじゃ、ショーコ先生も精神的に参るよなって思って、実行に移した」

「…なにを、」


自分の目つきの悪さは十分に自覚しているつもりだ。その上で、表情が明るく見えるように意識をしていたけれど、相手には伝わっていなかったのか。


「俺に好意を持ってて、お前のことを好ましく思ってない佐島由宇と付き合った」


ツキ先輩は、サジマと付き合っていた。そう思うと、やりすぎなサジマの言動も、少しは頷ける。


「佐島由宇は、お前の目つきは嫌いだけど、他はよく知らないから虐めには発展させたくないと言ってた」


わたしの下手くそな笑顔を見たサジマが、いい顔してるじゃんって、褒めてくれたっけ。最初から、サジマはわたしのことを虐めようとは、思ってなかったのかな。


「でも、それじゃあ俺の計画が台なしになるから、俺と付き合う代わりに狐井小梅を虐めろと佐島由宇に約束させた」


その先は、聞かなくてもわかった。サジマは好きなひとのために、わたしを虐めて、嫌われたくなくて、過剰に手をだした。ぜんぶ、ツキ先輩の掌の上だったんだ。


「お前と付き合ったのは、どうしようもなく俺を好きにさせて、あとでこっぴどく振ってやろうと思ったからだ」


サジマが言ってた、ツキ先輩に気をつけろってこういうことだったんだ。きっと、サジマもどこかでおかしいって気づいていたはずで、でも用なしってレッテルをつけられるまでは信じて、裏切られた結果だったんだ。


わたしだって、ずっと前に、ツキ先輩の底なしの冷たさに気づいて、一度は距離を置いたはずなのに、見せかけの優しさに騙されて、気のせいだって結論をだしてしまった。


「…A組とD組の衣装をバラバラにしたのも、先輩ですか」

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