キリンくんはヒーローじゃない
サジマの言っていた言葉が今になって、思い浮かぶ。
サジマ宛にメッセージを送り、返信を待っていると、すぐにピコンと、 通知が鳴り響く。
「ちゃんと仕事してるの?…あとで携帯弄ってたこと、注意してあげなきゃ」
届いたメッセージを躊躇なく開いて、添付されていた写真をタップして、穴が空くほど見つめる。
『盗撮されたどの写真も、黄林と映ってるやつ限定で、いい顔してんじゃんって思ったんだよね』
『あんた、やっぱりさ、黄林皐大を目に映している時が一番嬉しそうだよ』
わたしは、サジマの言葉を思いだしながら、あの日、騒動になった盗撮された写真を見て、頭を抱える。
「わたし、…ばかみたい」
サジマの見立て通り、恋する女の子のように、瞳の中がキラキラしてた。頬も耳朶も、仄かに桃色に染まってて、このひとが好きだって、全身で示しているみたいで、見ていて恥ずかしい。
きっと、わたしは、無意識にキリンくんのことが好きだったのだ。
理想の王子さまだと決めつけていたツキ先輩のことを、好きだと勘違いして、どこか違和感を感じながらもこんなものかと、惰性で付き合っていた。
「…最低だ」
携帯を額にコツンとぶつけて、溜め息を吐いた。
「…ん?」
懲りずにピコンと、鳴り続ける通知を指で滑らせて覗けば、嫌味ったらしいサジマなりの言葉が並んでいた。
『黄林のことを好きだって、やっと気づいた?』
目に映した瞬間、思わず、枕元に携帯をぶん投げてしまった。