この空の下
病院の一番奥にある院長室。


私が勤務するようになってからも、ここに足を踏み入れることはしなかった。


前院長の思い出の詰まった品がありすぎて、手と付けられなかった。



「使ってないのね?」

理事長も気づいたらしい。

「ええ」


「あなたが来る前にすべて処分すればいいのに。こんなに物が残ってたんじゃ使いにくいわよね」

「いいえ。作業スペースは十分ありますから。この部屋は必要ありません」

これは遠慮ではなく、本当。


「それならいいけれど。隆哉も気がつくようで、どこか抜けているから。やっぱり男の子はダメね」

なんだか母親目線。



「で、どうなの?」

「え?」

何がですかと、視線を送ってしまった。
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