この空の下
私の母は30歳の時にお見合い結婚した。

相手は地元の旧家の跡取りで、高校教師。

とっても穏やかで優しい人だったけれど、初婚ではなかった。

最初の結婚で授かった一人息子を5歳の時急病で亡くし、奥さんとの関係もこじれてしまい離婚。その後母と再婚した。

母と再婚後私が生まれたが、男の子には恵まれなかった。

私が生まれてからも、跡取りの男の子を望む周囲のプレッシャーが強く、同時に前の奥さんと比べられることに、母がノイローゼになってしまった。

結局、離婚。

私は母の実家に引き取られた。

もちろん父の家で育てる選択もあったけれど、母と離婚後すぐに3度目の結婚をした父の元で育つことことを母が望まなかった。

それでも祖父母が面倒を見てくれていたし、大きな苦労などすることもなく育った。

高校卒業の時、とにかく自分で生きていけるようになりたいと医学部を受験することにした。

母のようになりたくはなかった。

普通、子供が医学部を受けたいと言って反対する親はいないと思うけれど、私は父に大反対された。

他の道に進むなら援助はするけれど、医者になるなら一切の援助はしないと言われた。

当時は『意味が分からない』と怒ってみたけれど、後になって兄が亡くなる際に病院ともめて裁判になりかけたと教えられて納得した。

それでも、無事国公立に受かれば奨学金でやっていけると考えた。

しかし、受験に失敗。

浪人することも考えたが、その費用を出す当てもなく、悩んだ末に滑り止めで受けた私立の医学部に入学を決めた。

奨学金と教育ローンをフルで借りて、バイトも目一杯入れてやっと医者になった。




「随分苦労されたんですね」

私の身の上話を聞きながら、彩葉さんが2杯目の紅茶を入れてくれた。

「ありがとうございます」
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